発育およびトレーニングにともなう　サラブレッド骨格筋の適応変化

摘要

ウマが他の家畜と大きく異なっている点は、使役動物であると同時にアスリートとしての役割を担っていることであるといえる。 特にサラブレッド競走馬は、速く走ることを目的として改良を加えられた結果、走能力に対する優勢な遺伝的要因が意図的に集積されていると考えられる。 それゆえ、サラブレッドの運動生理学の研究は、その優れた運動適性のメカニズムが明らかにされるとともに、運動適性がどこまで変わりうるかという育種学的な課題にも重要な知見を提供しうる。 本稿では、幅広い運動生理学分野の中から、特にパフォーマンスに大きな影響を与えると考えられる、骨格筋の組織生化学的研究について述べる。 　 馬の骨格筋の研究には、全力走行時の主働筋の1つであり、トレーニングや脱トレーニングの影響を受けやすい中殿筋が最も頻繁に使用される。 現在までに、多くの研究者が、様々な観点からトレーニングや発育に伴う骨格筋線経の変化を評価している。我々は、筋線椎の中で最も収縮速度の速いtypeIIX線椎に特に注目して研究を行ってきた。 その理由は、主として短時間の全力疾走を求められるサラブレッドの運動様式を考える時、中殿筋において大きな体積を占めるtypeIIX線経の機能的改善が、筋全体の能力、ひいては個体の走行能力を大きく改善する可能性があるからである。 このような考えに基づいて、我々は様々なトレーニングプログラムに対する骨格筋線椎の適応変化を調べてきた。 本稿にてその一部分を紹介する。