カナダオンタリオ州の養豚場における不適切な温度条件下での精液保存とその原因

摘要

北米の養豚場では希釈精液を用いた人工授精が一般的になってきている。 しかし，人工授精での繁殖成績が自然交配よりも悪くなるケースもみられる。 これは自然交配に比べて人工授精では，作業手順中に取り扱いミスが起こり得る過程が多いためである。 特に精液の保存と取り扱いが最も重要である。 農場で精液を採取してから使用するまでの保管期間は，1～3日間が一般的である。 その間の精液の最適保管温度は，文献により多少の差はあるが一貫して15～20℃が推奨されている。 精子の代謝速度を下げるために精液を冷やすのである。 精液を20℃以上で保管した場合，精子の代謝速度は上がってエネルギー消費も速くなり，同時に代謝産物の蓄積も速まる。 結果的に精子の“寿命”を縮めることになる。 また，温度変化も精液の質に影響を及ぼす。 保管期間中に2～3℃の温度差があると，精子の寿命は1日縮まるという。 精子は温度刺激に対して特に敏感であるため，農場で人工授精の成績を左右する一番重要な要因はその温度管理であるといえる。