有機質肥料活用型養液栽培による根部病害抑止効果: 微生物生態系の「極相化」

摘要

有機質肥料活用型養液栽培（冇機質肥料を使つて栽培する養液栽培技術）は2005年に開発されたばかりの新しい栽培技術である（SHINOHARAetal.,2011)。養液栽培自体ば開発から140年以上の歴史があり，本技術が開発 されるまでは有機質肥料の使用は不可能とされてきた。 有機質肥料を入れると養液が腐敗し，根が傷害を受けて 健全に生育しなくなるためである。このため，養液栽培 では無機肥料が常識であつた（いわゆる無機養液栽培)。本栽培技術は微生物を利用することで，有機質肥料の 利用を実現している。養液中でも土壌の中と同じように アンモニア化成，硝酸化成が進み，有機質肥料を次々に 分解して養分が供給される。微生物の多くは根の表面で バイオフィルム（微生物群集構造）を形成し，有機質肥料を分解する（図-1)。根の発達は無機養液栽培と比べ て顕著となり，水中根では発達しないはずの根毛が密生 する（図-2:右が無機，左が有機)。現在，主要な野菜 の栽培技術について三重県，新潟県，大阪府，福島県の 農業試験場が研究を進めており，実用化のめどが立ちつ つある。