種子高温発芽阻害機構冬季一年草種子のアブシジン酸を介した温度応答による発芽タイミング制御

摘要

本誌の読者で週末の家庭園芸にいそしんでおられる方は多いだろう。 園芸書を読むと，「秋まき草花を種子から育てるときは播種の時期を逃さないように」との注意書きを日にする。そのわけは，秋まき園芸草本が，野生であったころの冬季一年草の発芽習性を残しているので，播種に適する期間が春まき草本に比べて短いことによる。 温帯の一年生草本は，生活費によって夏季一年草と冬季一年草とに分けられる。 夏季一年草は，春から初夏に発芽して夏期間に成長し，秋に開花結実する。 一方，本論文でとりあげる冬季一年草は，秋に種子発芽して越冬し，翌春から初夏に開花，種子生産する生活環を示す。 発芽が早すぎた冬季一年草個体は，高温や乾燥などの環境ストレスや夏季一年草との競争にさらされる。 また，発芽が遅すぎた個体は，冬までに十分な栄養成長ができないので，冬季の低温に対する耐性や春先の成長力に劣ってしまう。 これらはいずれも個体群の適応度を大きく下げる要因なので，冬季一年草の発芽時期は秋季の限られた期間に限定されることになる。 そのため，冬季一年草は，季節の移り変わりにともなう環境の変化を敏感に感知して最適な時期に発芽するためのしくみを獲得してきた。 以下に，環境因子として温度，内部因子としてアブシジン酸（ABA）に着目してわれわれが行っている種子の環境応答機構研究のこれまでの成果に基づき，冬季一年草の種子発芽タイミング制御機構について述べてみたい。