微量元素の化学種分析（化学形態別分析）の重要性

摘要

現在，動植物や海水などの環境中に存在する微量元素については，これまでの数多くの研究報告があり，多くの微量元素の生理作用や毒性などが漸次知られてきた。 また，微量元素の中には，ある微量濃度範囲内では生体にとって必須であるが，固有の濃度以上では有害な元素も多数あり，様々な影響を及ぼすことが知られている。 さらに，人体にとって，必要な濃度以下では，特有な欠乏症を示す元素も報告されている。このように，実際には，我々を取り巻く地球環境中には多くの必須な元素があり，逆に有害な元素も存在し，いろいろな媒体を通して人体に侵入してくる。 特に，日常的に摂取している食品などには有用な微量元素が含まれているが，他方存在濃度によっては有害な微量元素も多く見出されている。 実例としてよく知られているように，昆布，わかめ，ひじき等の海藻類を食する日本人では，特別に高濃度な暴露がない場合，食事を介して約200μg/日のヒ素を摂取していると言われている。 ところで，ヒ素などの有害な微量元素の人体に対する毒性や生理的な作用の相異は，存在する化学形態に大きく依存していると考えられる。 例えば，魚貝類中に含まれる無機水銀とメチル水銀では，その化学的な性質はまったく異なり，毒性ならびに体内分布にも大きな違いが出てくる。 同じように，スズも無機態と有機態とでは，その毒性に大きな違いがあり，例えば，巻き月中で検出された内分泌撹乱化学物質の一つであるトリブチルスズオキシドはその好例である。 また，クロムは3価と6価では価数の違いにより毒性に大きな相違があることは古くから知られている。