超不確実性時代のWTO：ナショナリズムの台頭とWTOの危機

摘要

2017年に発足した米国トランプ政権が繰り出す自国第一主義の通商政策は，ルールに基づく多角的貿易体制を根底から揺るがしている。本書は2017年以降の時代を，1977年に刊行されたガルブレイスの『不確実性の時代』に倣って「超不確実性（hyper-uncertainty）の時代ととらえる。そして，超不確実性をもたらした米国トランプ政権の通商政策と，多角的貿易体制としてのWTOの過去，現在と将来を丹念に検討する。本書の標題が示す通り，検討の主眼はWTOである。2章でWTOの交渉フォーラムとしての実績が検討される。2001年に開始されたドーハ開発ァジェンダが行き詰まった後，2011年の第8回閣僚会合で，一括受諾方式に代えて合意可能なテーマを先行させる方式が打ち出され，2013年（バリ・パッケージ），2015年（ナイロビ，パッケージ）と一定の成果を上げたこと，2017年の第11回閣僚会合では電子商取引や貿易円滑化などの新たなテーマにつき交渉開始に向けた作業を開始する有志国の共同声明が出されたことを指摘し，WTOの交渉が新たな段階に入ったことを指摘する。