バラスト水による動物プランクトンの導入と定着の実態

摘要

バラスト水による動物プランクトンの定着による被害が最も顕著なサンフランシスコ湾と黒海で，どのような生物学的現象が起こっているかを解説する。サンフランシスコ湾では8種のカイアシ類が東アジアから導入され，そのうち7種が走者し，現地の生態系を激変させた。本湾では，複数の外来種による在来種へのさまざまな生物学的影響も観察されている。黒海では，北米産のクシクラゲ類が導入され，動物プランクトンを食り食べたため，餌を競合するカタクチイワシが激減して深刻な漁業被害がもたらされた。しかし，このクシクラゲ類を捕食する別なクシクラゲ類の偶発的な導入によって漁業は回復した。このような動物プランクトンの導入，定着にはバラスト水を持ち込む船種，航海日数，発着地が関係している。IMOのバラスト水管理条約が発効すれば，バラスト水による新たな外来性プランクトンの導入，定着はほぼ完全に防止できるであろう。しかし，活きた水産物輸出入のための飼育水や体内の水による導入，定着も懸念され，今後，どのように管理していくかが問題である。