墨滴

摘要

干支(えと)がー周して子(ね)の年が明けた。干支を方角に当てはめると、北に当たるのが「子」。ここを起点に時計回りに並べていけば、東が「卯(う)」、南が「午(うま)」、西が「酉(とり)」となる▼1300年の歴史を誇る佐賀県の武雄温泉に構える朱塗りの楼門は、東京駅丸の内駅舎などの設計で知られる同県出身の建築家、辰野金吾博士の手による。1915年の完成から1世紀近くを経た2013年に大修理を行った際、2階天井の四隅にこれら4種類の干支の彫り絵が発見された▼先日、現地で確かめると、なるほど方角通りの位置に配されていた。さて、残りの8種類は……「東京駅丸の内駅舎の南北ドーム内にあります」と、管理会社の担当者。12年に同駅舎が復原された際、八角形のドーム内の角に干支のレリーフも再現されたが、他の4種類の在りかは謎だった▼辰野が残した武雄温泉の設計図には東南、東、東北の3基の楼門が残るものの、予算の関係か現存する東南を除いて建設されなかった。全て完成すれば12種類がそろっていたのかもしれない▼楼門の落成の数カ月前に完成していた東京駅で8種類を使用したため、辰野は東西南北に当たる干支を故郷に残したとの説もあるとか。明治、大正期を代表する名建築家が残した謎は百年を超えて未解決のまま。子年の始まりに、辰野の思いへ想像を巡らせてみるのもいい。