米中貿易摩擦の中国、並びに世界経済への影響

摘要

米国のトランプ政権は、発足以来「米国第一主義」を標榜し、通商政策では保護主義的な姿勢を強めており、その最大の標的を貿易赤字の半分以上を占める中国に定めている。米トランプ政権は昨年、巨額の貿易赤字の縮小を目指して中国からの輸入品に対して制裁関税を課す決定を行い、中国政府も米トランプ政権の方針に対してすかさず対抗措置を打ち出した結果、両国関係は「貿易戦争」とも呼べる状況に発展している。なお、昨年末に行われた米中首脳会談を経て、米中両国による貿易制裁の応酬の動きには一服感が出て「一時休戦」となったものの、今後の行方については依然として不透明な状況が続いている。その背景には、米トランプ政権の中国を対象とする強硬姿勢の狙いが、単なる貿易赤字の縮小にあるか、それとも中国の産業政策や構造問題などに根差した「覇権争い」を目指したものにあるかが不透明なところにある。仮に、米トランプ政権の目的が前者に留まれば、中国政府が米国製品の大規模な輸入を促す政策を打ち出すなど、比較的「飲みやすい」譲歩で解決を図ることが容易と見込まれる。しかし、米トランプ政権の真の目的が後者にあれば、習政権の下で策定され推進されてきた産業政策の「中国製造2025」と正面から衝突することが見込まれ、中国側も安易な譲歩には動きにくくなることが予想される。他方、米トランプ政権はすでに中国企業によるハイテク製品に対する「締め出し」の動きを強めているほか、同様の措置を同盟国などに求めており、こうした姿勢は米トランプ政権の狙いが後者にあることを示唆している。本稿においては、今後米中貿易摩擦が一段と激化して貿易戦争状態に突入する事態となれば、中国経済、ひいては世界経済に対して如何なる影響を及ぼしうるのかを考察したい。