国内外の生態リスク評価の最新動向と今後

摘要

近年の化学物質種数の増加は目を見張るものがあり，すでに世界で流通しているのは10万種，日本では5万種と言われているが正確にはその数はわかっていない。国内では年間200〜400種程度の新規化学物質が製造または輸入されている。Chemical Abstracts誌で使用される化合物番号（CAS番号）登録数は1億4200万を超えた(2018年7月）。我々はそれら多くの化学物質の恩恵にあずかつている力5,中にはヒトの健康や生態系への悪影響が懸念されているものも存在している。そうした化学物質が，大気，水質，土壌等の環境媒体を経由して環境の保全上の支障を生じさせる蓋然性のことを環境リスクと言う。環境リスクは悪影響の懸念対象からヒト健康リスクと生態リスクに分けられる。生態リスクは，分子，個体，個体群，群集，生態系の各レベルで議論される。ここではヒト以外の生物について，個体または個体群レベルを中心に化学物質によつて起因される様々な毒性影響（死亡，繁殖阻害，成長阻害，性比のかく乱など）の ことを生態リスクとする。急性毒性は個体の死.慢性毒性は個体群の存続を明らかにする試験と考えられる。生物多様性や外来種問題は生態系レベルの議論で，それらのリスクは生態学に基づく"生態系リスク"として別次元と考える。