50年前には

摘要

近年の土壌学の進歩は，土壌の実体そのものに認識を深めた。たとえば養分に関連していえば，土壌中における各種成分の形態と行動は，土壌の最も活性な構成分である土壌コロイド，とくにその主体をなす腐植と粘土鉱物の実体についての研究によって，この約20年間に，それ以前とは比較にならぬほど正確に理解されるようになった。土壌中の複雑な生化学反応で作り出される暗色の特異な高分子有機物-腐植-については，まだ今後にまたねばならない点も少くないが，昔から土壌肥沃度の重要な支配者とみなされてきたこの物質については，多くの土壌学者の精力的な研究によつて次第に認識が深められてきた。また土壌の骨格ともいうべき粘土鉱物の実体も，X線回折や電子顕微鏡観察，赤外線吸収スぺクトルなどの進んだ研究手段の導人により，その結晶構造が明らかにされ，風化と墬壌生成作用のちがいに応じて，それぞれの土壌中に存在する各種粘土鉱物の構造上，の相異に基づく物理化学的な性質の相異が土壌の養分保蓄力や水分上の特性に大きな関連を持つことが次第に明らかにされてきた。