複数仮説化周期歩行モデルに基づく床センサネットワークを用いた実時間複数人物追跡

摘要

ビデオカメラに代表される視覚センサシステムは，無意識的な追跡を実現するための重要なセンシングデバイスとして利用されてきたが，特徴抽出の安定性が，照明条件や遮へいに影響されやすい問題があった．その点，圧力を検出する床センサシステムは，環境変化や遮へいに対する頑健性が高く，安定した人物検知が可能なため，近年，注目を浴びている．これまでに，多数の床圧力センサが開発されてきたが，信号処理の面に注目すると，複数の人間を実時間で同時に追跡するための有効な方法が，いまだ開発されていない状況である．そこで，本論文は，床センサネットワークを利用した，新しい実時間複数人物追跡モデルについて記述する，床センサがとらえた歩行信号は，非線形ダイナミックスを示すため，そのモデリングが特に難しかった．これに対して，歩行の周期性を仮定した周期歩行モデルを考え，歩行パラメータの複数仮説化によって，様々な歩行状況に対応する手法を考えた．モデリングの正当性を評価するため，50サンプルの直進歩行について追跡成功率を調べた結果，98％の成功率を得た．一時停止，急反転といった，周期性が成り立たない歩行についても，複数仮説化の効果により，80％以上の成功率を得た．また，並進，対向，交差の状態にある2人の人物について物体-観測対応の確からしさを計測したところ，適切な初期化が行われるという条件のもとで，信頼性の高い結果が得られた．これらの結果から，複数仮説化周期歩行モデルが有効な実時間複数人物追跡モデルであると結論した．