もうひとつの北欧: 建築家シーグルド•レヴェレンツの復活

摘要

20世紀を通して,西洋建築史に重要な影瞿を与え続けてきたニコラウス•ぺヴスナー(1902～83年)の著作『ヨーロッパ建築序説』(J.Murray,1942年)において記述されている数少ない北欧近代建築のひとつに,スウェーデン建築家グンナール•アスプルンド(1885～1940年)の設計とされるストックホルムの「森の墓地」(1915～40年)がある.アスプルンドへの言及は,これ以外に30年代に世界的な注目を集めた「ストックホルム博覧会」(1930年)があり,そこに表れた透明な近代建築の可能性への期待は,同年代のミース•ファン•デル•ローエ(1886～1969年)による「バルセロナ•パビリオン」(1929年)と同等に位置づけられている.そして,ラグナール·エストベリ(1866～1945年)による「ストックホルム市庁舎」(1923年)の示す歴史的建築の自由な折衷主義的表現が示す新たなロマン主義の独創性にも言及しているが,その一方で後にミースと並ぶ近代建築の巨匠となる若きアルヴァ·アアルト(1898～1976年)については,わずか1行しか触れていない.—般的な西洋建築史における北欧は文化的にも長い間圏外にあり,20世紀前半においても,ドイツ中心の中央ヨーロッパを起源とした近代建築の潮流からも遠く離れた辺境の地にあった.19世紀の末に,全ヨーロッパ的に台頭するナショナル•ロマン主義の思潮を基盤として展開する北欧独自の表現主義や,古典主義的折衷主義,さらには新しい近代主義などについての先述したべヴスナーの洞察は,それまでの建築史が無視してきた領域に正確に光を当て始めた先駆的意味では,極めて意義深いものであった.しかし,その後の状況はほとんど改善されてはいない.