環境と子どもの成育

摘要

私は1941年に神奈川県保土ケ谷で生まれました.地名からも分かるような斜面緑地の小山に囲まれた谷間の町で，戦時中に，丘にトンネルを無数に掘り，防空壕がつくられていました.戦後に少年時代を過ごした私は，谷や防空壕跡で遊hでいました.身の回りに大工さhはいましたが，いわゆる建築家という職業は身近ではなかったのですが，数学や理科が好きだし，文学も好きで絵も得意だったので，理系と文系の間を目指していました.当時，経営工学科ができたばかりの東京工業大学を志願し，1960年に入学しました.まさに60年安保の時代で，大学に行ってもほとhど授業はなく，私も安保闘争に加わっていました.建築を志したきっかけは，1 年生の5月にあった全学祭です.当時の全学祭は，各研究室の研究成果を発表する場だったのですが，建築学科の谷口吉郎研究室の方に誘われて「人間疎外と科学技術」というプレゼンテーシヨン作成を手伝うことになりました.それに影響を受け，谷口研究室に行こうと決め，建築学科に転向しました.当時,清家清さhが助教授から教授,篠原一男さhが助教授になつたばかりでした.当時，谷ロ吉郎先生は57歳で既に日本芸術院会員になられて，先生の部屋が研究室より大きくて助手も2人いましたし，当時先生が設計されていた名古屋大学博物館（当時.古川図書館）の施工のために大林組の設計部に就職した研究室卒業生もいましたね.私は谷口研究室でもっぱら卒業研究をしていましたが，学生を自由にさせてくれてよい研究室でした（笑）.当時私は，栗田勇の『伝統の逆說』（七曜社，1964年）にとても影響を受けて，「歴史的空間論」を研究テーマとし，城を対象に選びました.安土桃山時代には，鉄砲の伝来によって戦争の形式が変わり，城に砦や要塞としての機能が求められ石垣や漆喰で塗り固めた耐火木造が生まれ，シンボル性を持った木造の高層建築ができてきたわけです.わずか 50年で城の様式ができ上がるのですが，なぜそhな短期間に新しい様式が生まれたのか，研究しました.4年生の8月に一度，谷口先生に研究内容を発表する機会があつたのですが，「君ね，南蛮建築をやりなさい.それをやれば博士になれます」と言われました.でも博士に行く気はなかったので，やらなかった（笑）.卒論の結論では「城という新しい時代の建築様式は，多様なデザイナーの協力によってつくられた」とまとめました.武将はもちろh，砦をつくる工兵としての田舎大工，千利休のような中国ゃヨー口ツパとの交流を持つ文化人，渡来してきた南蛮人などの多様な人が，合戦で短期間に建て，勝ち，都市のシンボルとしてつくつた様式が城だと言えるわけです.この協働の考え方は，1968年に立ち上げた私の事務所である環境デザイン研究所のコンセプトにも繋がっています.谷口先生からは著作を通してさまざまに学びました.特に建築に対する環境工学的な視点には大きな影響を受けました.先生は1943年に「建築物の風圧に関する研究」をテーマに学位を取られているのですが，そうした設計と研究の両立は，その後の私の姿勢に繋がっていきます.