オーステナイ卜系ステンレス鋼の低温プラズマ浸炭によって形成した拡張オーステナイト相とそのしゆう動特性

摘要

JIS-SUS304,310Sや316鋼に代表されるオーステナイト系（Ni-Cr系）ステンレス鋼は，ステンレス鋼の中で唯一非磁性であり，耐食性ならびに耐熱性に優れる.オーステナイト系ステンレス鋼のグローバル生産量は，全ステンレス粗鋼生産量4808万トン/年（2017年）のうち，二相系（オーステナイト·フェライト系）を含めれば約55%を占めるしかし，オーステナイト系ステンレス鋼は，伸びや絞りなどの靭性は良好である力5'，強度は構造用鋼として比較的低い.例えばSUS304鋼（溶体化処理材）の場合，引張強さが550〜650MPaと普通炭素鋼のS35CやS40C焼ならし鋼とほぼ同程度であり，摩擦摩耗特性も十分ではない.表面硬化処理をするにしても，最表面の不働態被膜の存在によりガス浸炭やガス窒化/ガス軟窒化は難しい.適切な活性化処理（酸洗やハロゲン化物による処理など）を行えば可能ではあるが，これらガス雰囲気処理の一般的な処理温度である480°C以上の高温処理（浸炭：850〜980°C，窒化/軟窒化：480~590°C）では，クロム系の炭化物や窒化物の析出により不働態被膜の形成が阻害され耐食性を大きく損なう.また，窒化処理では，浸入した窒素が鉄と反応し磁性体として知られる準安定窒化物α"-Fe_(16)N_2相が析出するため非磁性を維持できない.