熊本から未来へ『つなぐ』メッセージ：南阿蘇村役場の取り組み

摘要

2016年に発生した熊本地震で特に被害の大きかった地域の一つである南阿蘇村では、大規模な山斜面の崩落が各所で発生し、家屋の倒壊被害のほかに、道路や鉄道等のインフラが甚大な被害を受けた。急ピッチで復旧工事が進むにつれて、震災の爪痕が消え、人々の地震に対する記憶や教訓も失われていくのではないかと危惧した村役場関係者により、熊本地震を後世に伝承する一つの手段として、熊本地震伝承公式アプリ『つなぐ』(図1)が制作された。これまでに、地震の伝承として、地表に現れた断層や被災した構造物を遺構として残す震災ミュージアムや、これらの遺構を回遊する現地視察ッァーの開催等の取り組みがなされている。しかし、これらとは別に『つなぐ』は、ICTなどの技術を活用したアプリとして、震災遺構を疑似的に保存するとともに、熊本地震について学ぶことができる手軽さが魅力の一つといえる。また一方で、防災教育の観点とは別に、立野峡谷や外輪山といつた特殊な地形がどのように形成されてきたのか、阿蘇の成り立ちを学べる自然科学教育に生かしたいという狙いもある。こうした多様な使い方を見越して、『つなぐ』の制作、開発にあたつては企画コンぺを実施し、専門の制作業者を選定している。また、地震発生時の斜面崩落や阿蘇大橋の落橋の状況を再現したCGが収められているが、発生メカニズムに詳しい大学等の学識者に協力を仰ぎ、科学的な根拠に基づいた当時の現象をリアルに再現している。