熊本，萩及び若松における城址での模擬天守閣の建設構想とその背景: 戦前の地方都市における模擬天守閣の建設に関する研究 その4

摘要

本稿では実現には至らなかった模擬天守閣構想について、熊本、萩及び若松を対象に、その内容と経過を明らかにした。これら三都市ではいずれも藩政期には天守があり、維新時に焼失あるいは破却された。かっての姿を写した写真も残され、その意味では天守のなかった城下町都市に比べて、天守は身近な存在だった。熊本での模擬天守閣の設計はかっての天守の復元志向が明確だった。萩や若松も以前の天守と相関して多くの関心を誘った。ただし「天守の再建」に対する認識には違いがみられた。熊本では国民精神教育を一つの目的とした宇土櫓修繕の延長上に模擬天守閣の建設があり、加藤淸正による築城の偉業を子孫に伝えることが企図された。萩では模擬天守閣が武士道などの精神性の象徴とする見方がされる一方、倒幕を主導した立場から天守という封建社会の象徴性に対する抵抗もあった。一方、若松は戊辰の役による朝敵視への抵抗感があり、天守の再建による名誉回復の志向があった。%In the prewar period there were plans for the reconstruction of castle towers, but some remained unbuilt in the end. This paper examines three cities and aims to elucidate the details of the plans and their backgrounds. The movers behind the plans were municipalities, organizations combining public and private representatives. The plans ranged in degree of completeness from wishful concepts to specific designs. In each case regional promotion by attracting tourists was an aim, and the local citizens ware supportive. However, insufficient fundraising prevented the plans from reaching fruition.