現代日本の大空間建築における架構と仕上げの関係にみられる覆いの意匠表現

摘要

人々が雨風や日差しをしのぎ、そこでの活動を支えるために覆いを架けることは、建築の機能的水準において根源的な手段であるといえる。そうした覆いを構法的な側面からみると、まず外部環境から領域を限定する屋根と、それを力学的に成立させるための架構があり、屋根は表面に現れる葺材と下地となる野地板から構成される。また領域の内側を規定する天井が張られる場合は、その仕上げ材および下地材も覆いを構成する重要な要素のひとつとなる。このような覆いを意匠的な側面からみると、屋根面、天井面、架構の関係として捉えることができる。このうち覆いにおける架構は屋根を成立させるための構法的な側面だけでなく、力強さや緊張感といった性質をともない建築空間の性格に寄与する重要な要素であると同時に、たとえば張弦梁の上弦材を仕上げ材によって隠し、下弦材だけを現しにすることによる架構の軽快さを強調する表現、また架構の下端のラインをルーバー状の仕上げ材で隠すことによる視覚的な奥行きをもたらす表現がみられるように、天井面の仕上げの性質、および架構との位置関係は、架構がもつ性質とともに覆いの意匠表現の重要な側面を担っていると考えられる。以上の観点のもと、本研究では覆いの内側における架構および仕上げの性質と架構に対する仕上げの位置が切り替わることで生じる分節に着目し、分節された単位とその統合を検討することで覆いの構成における類型をみいだし、覆いの建築に内在する慣習的な表現の一端を把握できると考えた。また資料としては、間仕切り壁のない大きな空間がスパンの大きな架構により覆われた建築（以下、大空間建築）を対象とした。これは大空間建築では他の建築と比較して、高度な構築技術を必要とする架構の計画が設計の重要な位置を占めており、また建物の中心となる大空間にいかなる覆いを架けるかが建築意匠の主題になると考えられるからである。これより本研究では現代日本の大空間建築を資料とし、架構と仕上げそれぞれの分節と統合の関係そして両者の関係を相互に比較し、資料の多寡による偏りから覆いの構成における類型をみいだすことで、大空間建築の覆いの分節による意匠表現を明らかにすることを目的とする。%The aim of this study is to clarify the representation method based on construction and design on large span buildings by contemporary Japanese architects. Firstly, the characteristic of segmentation in structure is analyzed by the relationship between structural components and roof shapes. Secondly, the characteristic of segmentation in ceiling surfaces are analyzed by the relationship between types of ceiling materials and positions of ceiling surfaces. Finally, 12 types of segmentation are determined through the combination between previous two characteristics. It is pointed out that large span buildings have three spaces which have the relation between a central part and peripheral parts by segmentation in both structure and ceiling surfaces.