ブータン王国パロ県の農村集落チュバ及びアツォにおける伝統住居の屋内平面空間構成に関する研究各部屋の現地ゾンカ語呼称と用途に着目して

摘要

ブータン王国では生業と生活、仏教文化、生活文化に支えられた文化的景観を保持する伝統的農村集落が多く残されている。しかし、そのブータンにおいても近年ではグローバル化とともにいわゆる近代化が押し寄せてきており、都市化と集中、車やテレビなどの近代的利便機器の急速な浸透など、変化に直面している。一方、住宅建築では都市部においては木、土、石などの従来の建材を用いた古い伝統住居のほか、コンクリートを使用した現代建築が建てられるようになっている。また急速な都市化の為に、団地化した集合住宅も登場し、急傾斜地に建つ違法建築も散見される状況となっている。さらに、近年の土地所有制度の変更で最小敷地の制限が緩和され土地の細分化が可能となり、利活用が難しい微小敷地が増加するなどの問題も発生している。このため、材料ばがりでなく、空間の持つ意味や質も変化してきている可能性がある。機能重視で周辺の文脈より切り取られ断片化した空間の発生や、仏教的倫理観のもとで環境內存在として生きてきたブータン人であれば本来望まないであろう変化が今後もたらされるなどの懸念がある。これらの社会的背景のもと、本研究は、ブータン伝統住居の屋内空間に対する居住者の空間認識や各室の意味を考察するための基礎資料とするため、同国西部のパロ県内にあるチュパ集落及びアツォ集落に今も残る伝統住居を対象に、その間取り及び屋内空間構成を実測•実踏調査により記録として残し、さらにヒアリング調査により①各部屋の使われ方の具体的事例②屋内空間の基本構成と各室の現地ゾンカ語呼称を明らかにすることを目的とする。%This study aims to understand spatial organizations inside traditional Bhutanese houses through an empirical survey in Paro, Western Bhutan, on the uses of rooms and their names in Dzongkha. The results indicate that the main floor includes an intermediate space (Bako in Dzongkha), a living room (Youkha), and an alter room (Choshom) with an inner altar room (Tshamko). The window side in the Youkha is the primary place for the view and breeze, and traditionally had precedence. Some local Dzongkha room names differ from English names in that they express the spatial placement of rooms rather than their functions.