ウィトルーウィウスの「建築十書」の記述にみられる建築思想と周辺建築文化との関連性について古代エジプトの建築関連資料との比較分析を中心に

摘要

本研究はウィトルーウィウスの「建築十書」の記述の一部を彼の時代以前の建築文化の視点から分析した。 まずウィトルーウィウスが古代地中海文明圏の建築文化に関して持っていた知識は同時代の知識人たちの範疇にとどまり、いずれの記述も独自の現地見分見や一次資料に基づいたものではなく、ラテン語およびギリシア語文化圏内の書物や聞き取りなどから得られた。 情報であったと考えられる。またこれまでは、「建築十書」のどの部分がウィトルーウィウスのオリジナリティーでどの部分が先人たちから受け継がれてきたものか判然としなかったが、少なくとも人体のプロポーションを建築に譬えたり、柱にジェンダーという概念を当てはめて3つの様式が持つ性格を説明したり、またモデュール·システムを用いて建築全体を統御したりする発想は、ウィトルーウィウスの創造ではなく、既に他国の建築文化における伝統であったことを示した。特に彼はギリシアを通して彼の与り知らぬところでエジプトにおける建築思想を無意識的に受容していたことになり、エジプト建築における思想が間接的な形で、彼の建築思想の起源の大きな部分を担っている点は、今後「建築十書」を正しく読み解いていく上で重要である。%This paper offers a new approach to the architectural treatise"De Architectura", written by the Roman architect Marcus Vitruvius Pollio. By analyzing his text and the architectural context of the ancient Mediterranean civilizations that flourished before his time, it becomes clear that Vitruvius did not consult the treatises other than the Ancient Greek sources. As a result, he adopted unconsciously and indirectly the architectural philosophy of the ancient Mediterranean civilizations, particularly that of Ancient Egypt, such as the analogy between the temple and the human body and gender, or the module system.