価格から見た和釘から洋釘への転換

摘要

近世に流通した和釘が、近代に入り洋釘に置き換わったことは歴史的な事実として広く認識され、その転換時期は安田善三郎の『釘』によれば和釘と洋釘との交代は無論都鄙に依りて遅速有りますが、概して、明治二十年ころから、三十年ころの間にあったやうに思われますとあり、明治20 (1887)から明治30(1897)年頃とする記載が一般には周知されている。ところで、筆者らは和釘から洋釘への転換にはやや幅をもった移行期間が存在したこと既に示している。つまり、明治10(1877)年代後半が和釘から洋釘への移行期間で、この時期おいて日本で建築が行われた建物では、住宅、社寺建築、洋風建築など、その種類を問わず、和釘と洋釘が併用されたことをこれまでに示している。このように和釘から洋釘への転換は、広範な歴史的な事実として受け入れられ、建築年代を判定する際の編年にもしばしば用いられている。しかし、その一方で和釘から洋釘への転換を促した背景の解明が進hでいるとは言い難い。和釘から洋釘への転換期において、安田善三郎は以下に示すように様々な問題があったことを『釘』において指摘している。