内接十字型教会堂における内部建築構成の展開: 中期ビザンッ文化圏における内接十字型教会堂の系譜　その 1

摘要

本研究におけるビザンッ文化圏教会堂建築（以下、「ビザンッ建築」と呼称する）とは、ビザンッ帝国の存在した期間を通じてその領土であった地域、および一時的にビザンッ帝国の版図となりかつビザンッ帝国同様に東方正教会の教義を信奉していた地域に建設された教会堂群を指し、中近東から地中海地域における建築文化の史的展開を明らかにする上で注目すべき建築群と捉えられる。これまで筆者らは、中期ビザンッ建築（9～12世紀創建のもの）において、最も一般的かつ多様な用途の教会堂に使用される建築形式の一つであり、ビザンッ文化圏の広汎な地域でみられる内接十字型の教会堂に着目し、その立体的な構築物としての特質を明らかにすることを目的に、考察を進めてきた。このうち、前々稿では内接十字型教会堂の内部において地面から垂直に建ち上がる壁体について、建築的な形態と構法との組み合わせとしての架構に着目して、その架構構成を中心に類型化を行い、類型間の類似性と相違を検討して内接十字型の成り立ちに関する考察を行った。その結果、内接十字型がこれまで捉えられてきたように単一の建築形式ではなく、異なる二つ以上の系統を総称している可能性について指摘した~(1))。また前稿では、教会堂内部の天井面の架構に着目して、その構築順序について検討した。その結果、前々稿において見出された系統と対応するように、天井面の構築順序についても大きく二つの手法が見出されたと共に、両者の混淆と見做される教会堂が存在することを指摘した~(2))。%The cross-in-square is one of the most common church types in the Middle Byzantine period (9th-12th centuries). Previous studies established the defining floor layout of these churches, but did not investigate their development over time. This paper looks at all churches within the area of Byzantine cultural influence to note the derivation in their architectural configuration, construction methods and three-dimensional shapes. Two different lineages are identified, along with another group that does not amount to a lineage; previous studies have overlooked these changes in architectural configuration over time in their focus on the plan.