エネルギーシミュレーションとCFD の連成による熱環境解析手法に関する基礎的検討 その１ 完全連成による温水床暖房システムの熱環境の再現

摘要

現代の建築環境における数値シミュレーションはエネ ルギーシミュレーション(energy simulation) と CFD(computational fluid dynamics)に大別される。エネルギ ーシミュレーションは一質点モデルであり、空調機や熱 源に対して、室内空気と投入熱量が瞬時に完全混合をす ることを仮定して計算される。この利点から長期の非定 常解析を得意としている。しかし、床吹き出し空調やオ フィスのタスクアンビエント空調に代表される熱的な局 所性を利用した空調システムを評価するのは難しい。こ の問題に関して、熱環境が形成される室内の空間を上下 に層状に分割し、モデリングする事によって上下の温度 分布を再現する試みが行われている。この解析手法は室 内空間で生じる3 次元的な熱輸送をゾーンで代表するため、 必然的に対流熱伝達率や境界面の移流量など多くの調整 すべき経験定数を必要としている。そしてこれらの経験 係数は、限られたモデルにのみ有効で汎用性に限られる1)。 経験係数はCFD を用いる事により、3 次元の微細な熱移動 を考慮して算出する事が可能である。対象空間の熱輸送 をCFD で解き対象空間までの躯体表面から壁体内を含め た熱輸送を一質点モデルであるエネルギーシミュレーシ ョンを用いて計算を行い逐次連成させるダイレクトカッ プリング手法が開発されている2)。この手法では対象室の 個々の熱負荷変動に対応した期間のエネルギー使用量が 算出出来る事が示されている。しかしながら、対流熱伝 達率の参照温度の定義や収束判定基準などといった設定 条件が不明瞭であり再現性という観点において疑問が残 る。このような背景を踏まえて本報では、自然対流の卓 越する室内熱環境に対して、温水床暖房を導入した際の ダイレクトカップリングの有効性を確認する。次報では 大空間を解析するのに必要とされる経験係数を連成する 基礎的な検討を行う。