Tolosa-Hunt症候群,糖尿病性外転·動眼神経麻痺

摘要

急性の眼球運動障害では,眼筋自体の障害,重症筋無力症による神経筋接合部の障害,核·核下性あるいは核間·核上性障害の鑑別が必要であるが,ここでは脳神経麻痺による代表的な2疾患を取り上げる.Tolosa-Hunt症候群(Tolosa-Hunt syndrome:THS)は片側の動眼·滑車·外転神経のいずれか,あるいは複数の麻痺による複視があり,外眼筋麻痺と同側の眼周囲,側頭部の疼痛を伴うことが特徴である.ただし,有痛性外眼筋麻痺の75%以上はTHS以外の疾患であり,腫瘍,血管炎,脳底髄膜炎,サルコィド,頸動脈海綿静脈洞瘻など多く疾患の鑑別を要する.国際頭痛学会の診断基準(ICHD-3)では,THSでは眼痛が外眼筋麻痺と同時期あるいは2週間以内で先行し,肉芽腫病変が海綿静脈洞,上眼窩裂または眼窩にMRIまたは生検で証明されることがあげられている.一般に片側性であるが両側性のことが4〜5%あり,三叉神経(多くは第1枝),顔面神経,聴神経,視神経の麻痺を伴うこともある.MRIでは海綿静脈洞のT1等信号,T2等～低信号で造影される病変を認める.ただし,この画像所見はTHSに特異的なものではなく,リンパ腫ゃサルコィドなど他の鑑別診断でもみられる.臨床的にTHSが示唆されるがMRI所見を認めない患者が約1/3ありbenign THSとよばれているが,他の疾患の鑑別が重要となる.