ネパールの水事情: 水安全性とその改善へのチャレンジ

摘要

ネパール連邦民生共和国(通称 ネパール；総面積約147,000 km~2，総人口約2,660万人)は，インドと中国に囲まれた南アジアの内陸国で，その北部にヒマラヤ山脈がそびえていることで有名である.経済的水準が極めて低いネパールは，国内総生産(GDP)が221億ドル(調査国188ケ国中107位)，一人当たりのGDPが703ドル(調査国186ケ国中169位)で，後発開発途上国に属している.その首都力トマンズはネパール中央·東部に位置し，2,000 m以上の山々に囲まれた標高1,400 mの盆地都市である.ネパールでは都市部と地方部の経済·生活格差が著しく，貧困に苦しむ地方からカトマンズへの急激な人口流入が続いており，現在では，664 km~2のカトマンズ盆地にネパール人口の1割を上回る300万人ほどが居住しているといわれている(人口密度は4,500人/km~2以上).この人口集中に対してカトマンズのインフラ整備が追いつかず，とりわけ水供給，下水と衛生関連のサービスが年々悪化している.このような背景の中で，持続可能でバランスのとれた経済成長と社会環境·基盤整備の第一歩として，安全な水へのアクセスの向上が強く望まれている.我々山梨大学国際流域環境研究センター(ICRE)は，2007年度よりこのカトマンズにおいて現状理解のための調査·研究を実施してきたが，2014年度に(独)国際協力機構(JICA)と(独)科学技術振興機構(JST)の支援による地球規模課題対応国際科学技術協力事業(SATREPS)「微生物水文学的アプローチによるカトマンズ盆地の水安全性確保に関する研究」が採択され，研究成果の社会実装を目指したプロジェクトをスタートさせた.ここでは，「水安全性」を「安全·安心な水の安定供給」と定義している.本報では，カトマンズの水事情とともに，その改善に向けた我々のチャレンジを紹介したい.