「有島武郎札幌邸(大正2年)--建設事情とその沿革について」(1986)投稿の背景

摘要

有島武郎邸は、有島武郎（1878-1923)が東北帝国大学 農科大学(現北海道大学)予科教授在任中の1913年に建設し た自邸である。有島一家は1年余り居住し、その後親友で文 化普及会設立者の森本厚吉が所有、1940年農林中央金 庫職員寮を経て、1960年三井武光が北海道大学住宅建設 協会に寄贈移築後、北海道大学「有島寮」として1983年まで 使用、その後、保存運動を経て1985年「札幌芸術の森」に移 築された。保存運動に参加した筆者は、実測調査の機会も 与えられ『旧有島武郎邸解体調査報告書』（1984年12月)を取 りまとめた。その過程で、映画『白痴』（1951)から旧状を得、ま た、有島武郎全集の日記や武郎のスケッチを参照し、創建時 の状況、沿革、設計者考察を進めた。投稿論文では、武郎 自身が建築や住宅改良に深い関心があったこと、「妙なぬえ 式」と自評する住宅がモダン住宅の早い例であること、北海道 で普及するギヤンブレル•ルーフ(腰折れ屋根）デザインの先駆 例である点を指摘した。