新しい価値の創造と公共性のせめぎ合い--科学技術社会論から考える

摘要

私の著書『専門知と公共性--科学技術社会論の構築へ向けて』（東京大学出版会、2003)で想定している専 門家とは、建築家ではなく物理学者、化学者、生物学者など の自然科学者です。民主主義とは「人民の人民による人民の ための政治」ですが、科学技術の知識生産とは「科学者の科 学者による公共のための知識生産」で、「for」のところが違っ ています。私の専門である科学技術社会論では、いかに科学 技術を公共へリンクさせるかが重要なテーマのひとつです。科 学者は各領域の専門誌に論文を投稿し、査読者によるアク セブトとリジェクトの積み重ねによって専門誌ごとの「妥当性境 界」を形成していきます。そうした査読システムによる「ジャーナ ル共同体」が内部に閉じようとする一 方で、どうしても公共に晒されなくてはな らない場面があります。それは例えば 広域気候変動問題(地球温暖化)など、 科学的合理性だけでは答えが出せな い問いの場合です。そうした問いに開 しては、専門家は議論をジャーナル共 同体の外に開き、賛成派や反対派の 市民、NPO、 NGO、関連企業など利 害関係者がかかわって考えていかな ければいけません。科学的な合理性 だけでは答えが出せないため、社会 的合理性を担保しなければいけないというわけで す。社会的合理性にはすべての利害関係者の関 与、議論プロセスの透明性、選択肢の多様性など が必要です。