都市計画は誰のためにあるか

摘要

本号では連載当初に紹介した英国の1968年以降の歴史都市の都市回復運動、その後の歩行者空間の発展形を紹介したい。同運動の交通計画面での中心的役割を果たしたのが都市計画家コーリン•ブキャナン(Colin Buchanan,1907-2001)である。その街路空間を舞台とするさまざまな改善提案こそ都市交通計画のバイブル的存在となる「ブキャナン•レポート—Traffic in towns、(邦訳•都市の自動車交通、鹿島研究所出版会、1965年)」の理論を体現化したものであった。それは都市内道路を主要幹線、幹線、補助幹線、区画道路の4段階に整理するという考え方だが、その理念は、通過交通のための空間(都市の廊下)と良好な居住空間(居住環境区域、都市の部屋)を明確に分けること、つまり居住空間領域は基本的には歩行者優先という主張にほかならなかった。それを受け、英国の各都市は70年代以降、中心市街の歩行者専用•優先区域を実現させる。それは既掲載の歴史都市、チェスター、バース、ヨーク、チチェスターだけでなく、ノーリッジ、リーズ、マンチェスター、リバプール、ロンドンなどの大都市まで広がっていく。さらに国の道路交通法改定につながり、安全•安心を保障される形で商店主そして一般市民の帰還をもたらし、中心市街の再生を果たすことになる。また郊外住宅地においてもさまざまな歩行者優先領域が実現する。わが国ではブキャナン理論の、道路の段階構成は踏襲されるも居住空間そして歩行者への視点は大きく欠落した、というのが筆者の見解である。