太陽光発電大量導入地域における蓄熱システムの余剰電力吸収効果の検討

摘要

従来の集中型エネルギーシステムから，再生可能エネルギー(RE)源を主力電源として取り込む，分散型エネルギーシステムへの移行の機運が高まっている．変動性再生可能エネルギー(VRE)である太陽光発電(PV)および風力発電(WT)は，本質的に出力が天気任せであるため間欠性を持つ．そのため普及拡大には，短期では出力変動，長期では需給の季節変動を吸収するという課題がある．この課題を解決するため需給調整市場，バーチャルパワープラント(VPP)などの制度設計が進展しており，短期の調整力には蓄電池(BT)，電気自動車(EV)および蓄熱槽(TES)，長期の季節変動には，水素製造(P2G)および燃料電池(FC)ならびに大型の蓄熱槽を用いるなど種々の個別具体的な解決策が検討されている．一方で，長期的な視野でのエネルギー転換(energy transition)には，これら個々の方策を合理的に統合し，既存システムを次世代の低炭素システムへ転換してく必要がある．指標として，エネルギー効率および経済合理性に加えて，新システムへの社会的受容性も議論していくことになろう．この議論の道具立てには，システム全体を見通せる視覚的な補助線が必要である．これまで著者らは エネルギーチェーン分析1)に基づきエネルギー採掘から最終需要までのエネルギー流の流れを可視化し，分析する手法を用いて次世代の電力・熱システムを検討してきた2,3)．特に，同時投稿しているヒートポンプ(HP)およびTESを有する分散型エネルギーシステムのデマンドレスポンス(DR)指示値追従制御4)に相当する技術が，より広範に普及し，VRE余剰電力を地域単位で適切に吸収した場合における最適エネルギーシステムをエネルギーチェーン分析により明らかにすることに興味がある．本稿ではその基礎的検討として，エネルギー転換に向けたシステム設計手法を整理する．また，主として電力システムを対象とする電源構成および経済負荷配分モデルへ，熱・運輸需要を統合していくための方法論について整理する．