北口本宮冨士浅間神社の享保期における境内整備と郡内大工について

摘要

富士山北東の諏訪の森（かつて諏訪明神が鎮座した）に境内を構える北口本宮冨士浅間神社（富士吉田市上吉田）は（図1）、延暦７年（788）に浅間明神が勧請されたという由緒を持ち、古くから富士信仰の拠点の一つとして人々の崇敬を集め、特に江戸時代には「江戸八百八講」といわれるほどの興隆をみせた1）。享保年間には、江戸の御師である村上光清による修復が大々的に行われ、当時に建立・修復された複数の社殿等が今に残されている2）。その際、地元である郡内の大工が普請に参加した。　郡内には大工仲間が形成され、御役大工の萱沼弥左衛門を中心に、役大工が村々に居住する各大工の統制に努めた3）。一方で、北口本宮冨士浅間神社の普請では、大工仲間を超えて大工が関与したようである。北口本宮冨士浅間神社の修復と大工仲間の役割について、主に萱沼家文書を用いて検討する4）。