半導電層電極で挟hだXLPEフィルムにおける空間電荷分布と外部回路電流の同時測定

摘要

近年，再生可能エネルギーによる発電の増加により遠方や陸地から遠く離れた海洋上で発電した電力を都市部へ送電する長距離送電が必要となっている。都市部においては交流送電が主流であるが，長距離送電においては，交流送電は電力損失が大きく，電力系統の不安定性が発生する懸念がある。さらに，今後活用が重要視されている風力や太陽光などの再生可能エネルギーを利用する多様な発電方法を含む電力系統では，交流で発電された電力を直流に変換した上で送電する方法が現実的であるため，長距離送電には直流送電が使用されている。ただし，直流送電は発電された電力を直流に変換し，受電端では直流を交流に変換しなければならないため，変換機のコストの問題があるが，送電損失は交流送電に比べて少なく，安定した送電が行えるため長距離送電においては有効的であると言われている。こうした背景から，ヨーロッパでは直流高電圧(HVDC：High Voltage Direct Current)による送電網の構築が活発化している。この計画では，電力ケーブルで国と国とを結ぶほか，海洋を横断するような長距離送電も必要となる。海洋を横断するためには，架空線ではなく海底ケーブルが必要となり，絶縁体に高分子絶縁体の一種であるXLPE(Cross-Linked Polyethylene:架橋ポリエチレン)を絶縁体に用いたXLPEケーブルの使用が求められている。なお，直交変換機においては，他励式と自励式の2種類の方式があるが，大容量の変換システムとして実績がある他励式直交変換システムを用いる場合には，電力潮流の方向を反転させる場合，送電·受電端の整流器とインバーターの役割を変換させる際に，電圧極性を反転させる必要がある。すなわち，XLPEケーブルを使用する場合にはXLPEに印加される電圧の極性が反転する。しかし，XLPEは極性反転時に空間電荷の蓄積により絶縁破壊する可能性があると言われている。そこで，極性反転がXLPEの空間電荷挙動に与える影響を調査するために，印加電圧の極性を反転させた際のXLPEにおける空間電荷分布を，パルス静電応力法(PEA法：Pulsed Electro-Acoustic method)を用いて調査をしてきた。ただし，PEA法では従来，接地電極としてはアルミニウム板を，また，高電圧電極としては半導電層をそれぞれ使用しているが，本報告では，実際のXLPEケーブルの絶縁体に近い状態での実験を想定し，半導電層電極で挟hだ状態の，架橋剤分解残渣を含むXLPEフィルムを用いて実験を行った。