ピッチグライド音生成を目的とした膜鳴楽器の非線形振動解析

摘要

楽器の構造や発音機構とその音色の関係は，演奏者や設計者にとって非常に興味深い問題であり，これを明らかにするため，これまでに様々な研究が行われてきた。この問題に対するアプローチとして，実際に楽器を用いて測定を行う方法と，楽器の構造や挙動を物理的にモデル化し，数値的なシミュレーションを行う方法の二つが挙げられる。前者のアプローチをとる場合，測定精度についてほとhど心配する必要がない反面，適切な測定装置や測定場所を用意する必要がある。一方後者は，手法さえ確立されれば，本物の楽器がその場になくとも計算機ひとつであらゆる状況を想定した楽器音を生成することができるという利点をもつ反面，解析精度や計算時間の点で課題が残る。どちらのアプローチもそれぞれの長所と短所があるが，振動の様子や音波伝搬の可視化が容易な点や，電子楽器?電子音楽への応用が可能な点を踏まえ，本研究では後者のアプローチをとる。　数値シミュレーションを行う際，現実に起こる事象を正確に再現することが重要となる。特に楽器の音色をリアルに再現するためには，あらゆる非線形的な挙動を厳密にモデル化する必要があると考えられる。　本研究では膜鳴楽器におけるピッチグライドと呼ばれる非線形現象に注目する[1]。これは膜鳴楽器のヘッドを加振する際，加振直後にわずかに音高が上ずるといった現象である。ピッチグライドは特に強い加振力が与えられた場合に生じやすいとされているが，その発生原理や発生条件について，詳細は明らかにされていない。以上の理由から，ピッチグライドを正しく観察することができる解析モデルを構築し，ピッチグライドが発生しやすい条件を調査することを本研究の目的とする。