イオンスラスタ作動時の宇宙機表面への推進剤イオン逆流解析

摘要

イオンエンジンの定常作動時においては，推進機から放出されるイオンビームと中和器電子による排気プラズマが形成される.排気プラズマ中では，イオンビームと放電室から漏れ出た推進材ガスとの電荷交換衝突により電荷交換イオンが生成されることが知られている.この電荷交換イオンは推進材ガス程度の低エネルギーで熱的に拡散するため，宇宙機構体と相互作用する可能性が指摘されている.例えば，宇宙機表面への付着による汚染（以後，宇宙機汚染）は宇宙空間に暴露する宇宙機材料の劣化や，電子機器等の性能低下をもたらす可能性があるため,その評価は宇宙機設計において重要である.特に電気推進機を搭載した宇宙機では，太陽電池パネルの汚染による発電電力低下や，放熱パネルの汚染による放熱量低下などが予想され，推進機システムに複合的に影響を及ぼすことが懸念される.このような背景から，イオンエンジンの性能評価の一環として，定常作動時における排気プラズマ中の電荷交換イオン生成と宇宙機周辺への拡散の定量評価は，地上試験や数値シミュレーションにより実施されている.