(J95-1168)低炭素マルテンサイト鋼における低温焼戻し挙動（ 硬さ変化に及ぼすNi の影響-3 ）Behavior of tempering at low temperature in a low carbon martensitic steel（ Effect of Ni on the changing in hardness-3 ）

摘要

著者らは焼入れたマルテンサイト鋼(Fe-0.3%C)を373 K で低温焼戻しすると硬さの上昇が生じることを確認しており、その主要因として焼入れ後に残存している固溶炭素が炭化物として析出することによる粒子分散強化である可能性を前報にて報告した1)。一般的には、機械構造用鋼に用いられるマルテンサイト鋼は強度や靱性、焼入れ性などを改善する目的で、Cr、Ni、Moなどの合金元素が添加されており、焼入れ後のマルテンサイト組織や、その後の焼戻しにおよぼす合金元素の影響を明らかにすることは工業的に重要である。本研究では、特にマルテンサイト組織を得る上で重要となる焼入れ性の向上に大きく寄与するNi に注目した。Ni を添加することでMs 点が低下し、これに伴い組織の微細化や転位密度の増大、冷却時に生じる炭素の偏析や析出(自己焼戻し現象)の抑制といった様々な影響が考えられる。しかし、そのような焼入れ組織の変化がその後の低温での焼戻し挙動にどのような影響を与えるかについて検討した報告例は少ない。そこで、Niを添加したFe-Ni-C系合金の低温焼戻しに伴う硬さの変化を調査し、前報の0.3C 鋼との違いについて比較、検討した。