立原道造の透視図「無題 浅間山麓の小学校」における構図の仮想性と田園性

摘要

夭折の詩人であり、建築家でもあった立原道造(1914- 1939) が、最初期（1935 年）に描いた建築の透視図に「無 題［浅間山麓の小学校］」がある（図1)。立原が東大建築 学科ニ年次の設計課題に応えたものとされる。ー見して、 透視図と呼べるほど厳密な線で描かれたものではなく、む しろスケッチに近い図ではあるが、図法的な狂いが少な く、着彩も鮮やかに施されていることから完成度の高いー 枚であるといえる。図1 より、設計した小学校が図の右端 に追いやられ、背景であるはずの浅間山が建築よりも巨大 に、構図の中心に描かれている点が特徴として挙げられ る。立原道造は、その活動の短さに比して多くの建築図面 を描いており、特に透視図が多く残されている。筆者は、 これまでに立原の透視図の構図を網羅的に分析し、それら には設計対象である建築よりも背景を主体的に描いた構 図のものが多いことを明らかとしている。また、立原の建 築本位でない自然優位な構図に見出した建築観を< 田園的 建築観> と定義し、その建築観が最も色濃く反映された図 が「無題［浅間山麓の小学校］」であったことを指摘して いる1）。本研究では、立原の建築観を代表する「無題［浅 間山麓の小学校］」の構図の特徴に言及することで、立原 独自の田園的建築観の特質のー端を明らかとする。