船舶設計へのシステムズアプローチの活用に関する研究

摘要

企業と社会にとって重要な課題の多くは，技術と社会システムの複雑化や大規模化が急速に進む一方で，製品や技術のコモディティ化が進み，新興国の製品?技術との差別化が難しくなっているという現状がある．海事産業においてもさまざまなステークホルダーが多数存在し，複雑な社会ネットワークを形成しており，技術面においても，近年のIoT(Internet of Things)機器の普及によって運航中船舶のデータを陸上へ送ることが可能になったため，これら新たな技術の効果的な利用方法が模索，検討されている．また，日本の造船業界に目を向ければ，近年，規則の厳格化，共通化により，競争相手である韓国や中国よりも高い人件費の影響を受け，コスト競争力で不利な立場にあり，見通しはかなり厳しい状況となっている．国土交通省の報告によると，最近10年では，韓国，中国から大きく水を空けられており，日本と中国の典型的なばら積み貨物船の新造船建造コスト(CAPEX: Capital Expenditure)の比較では，現時点で10%程度のコスト差がある．このような状況では，モノ単独の視点ではなく，モノを取り巻く全てを俯瞰する視点や他分野にまたがる機能を統合する取組みが必要で，特定分野の専門家の能力だけでは解決が難しい状況となっている．システムズアプローチは，このような複雑な問題に対して，全体像をシステムとして認識することで解決を図る方法論として注目されている．システムズアプローチとは，複雑な問題に対して専門分野やバックグラウンドの異なるメンバーが共同作業によるモデリングを行い，モデルベースのシミュレーションを行うことによって，システム全体を考慮したうえでの意思決定を行う手法である．