慣性質量ダンパーによる構造物の地震動に対する振動応答低減

摘要

動吸振器の中で制震構造に良く用いられている同調質量ダンパー(TMD)は風揺れ対策には有効であるが，地震応答を低減するためにはTMD の質量を大きくしないとならないため，構造物の地震応答低減にはあまり有効ではないと考えられている．近年，ボールねじ機構などにより錘を高速回転させ，慣性質量効果を得る装置（慣性質量ダンパー）に関する研究が進められている．従来のTMD よりもコンパクトかつ軽量で，大きな質量効果を得られる慣性質量ダンパーを用いることで，構造物の地震に対する振動応答を低減することが可能であると考えられる．このような装置に関する研究としては，以下の研究が挙げられる．奥村は，建物に慣性接続要素を付加することで，地震時の建物の揺れを大幅に低減できることを確認し，慣性接続要素を適用した免制震システムの設計を行った．磯田らは，1 質点系振動モデルに対し，慣性質量ダンパーを種々の形態で組み込み，それぞれの形態ごとに伝達関数を整理して示し，慣性質量ダンパーの有効性の検討を行った．中南らは慣性質量ダンパーに粘性減衰を付加した減衰こまを開発し，装置を組み込hだ場合の構造物の応答性状の検討を実機での動的試験により行い，十分な性能を発揮することを確認した．斉藤らは，慣性質量ダンパーを線形バネと直列に接続し構造物に組み込hだ場合に，構造物と適切に同調させる事で大きな応答低減効果を得られることを示し，定点理論を基に，1 質点系振動モデルの最大加速度，最大変位に対する最適応答制御法を提案している．杉村らは，慣性質量ダンパーを多層RC 構造物の各階に配置し，構造物の応答に応じて慣性質量ダンパーと直列に接続した線形バネの剛性を適切に選択することにより応答低減できることを示した．しかし，慣性質量ダンパーの有効な配置法，最適設計については報告例が少ない．