自転車対自動車事故における自転車乗員の被害低減効果に関する研究－マルチボディダイナミクスを用いた自動車操舵回避シミュレーション解析

摘要

近年，交通事故による自転車乗車中の死亡·重傷者数が全体に占める割合は増加傾向にあり，交通事故の死亡·重傷者数をさらに削減するには，自転車乗員への安全対策が重要である.自転車乗員への安全対策として，これまでに幼児·児童に対するヘルメット着用の努力義務化や自転車道の整備などの検討が進められているが，さらなる自転車乗員の死亡·重傷者数の削減に向けて，従来の取り組みに加えて新たな安全対策の促進が急務である.自動車側の安全対策の一つである衝突回避や被害低減を目的とした先進運転支援システム（ADAS)が普及しつつあり，交通事故削減·被害低減への貢献が期待されている.一般的に，これらのシステムは危険が顕在化した場合に警報や制御介入によるドライバを支援することを想定しているものが多い.制御介入支援の方策としては制動や操舵による回避が考えられるが，操舵回避システムについては作動条件が限られているなど，交通事故削減への寄与に向けてはさらなる研究が必要と考えられる.以上の背景より，本研究では，事故回避効果や回避できなかった場合における被害低減効果の解析を目指す（図1参照）ことを目的とする.そのためにマルチボディダイナミクスを用いて予防安全技術による車両挙動の変化を考慮した自転車対自動車事故再現シミュレーションモデルを構築する.本稿では，その初期検討としてモデルの概要および操舵回避の有無による解析例を示す.