原子力施設には,多数の回転機器(ポンプ,モータ,排風機等)が設置されており,運転中の振動を定期的に測定することで異常の有無を確認している.現状の簡易振動診断では,加速度計を用いたポータブル振動計が使用されており,手持ちプローブを一定圧で機器に押しつけたり,センサをマグネットで機器に固定する必要がある.その結果,回転機器近傍での作業が必須となり安全性の確保が十分ではない.そこで,著者らは機器近傍での作業が不要で,しかも現状のポータブル振動計と同等な可搬性を有する手持ち型振動計を開発している.開発した振動計は,センサとして非接触計測が可能なレーザ変位計を用いることでセンサの固定を不要とし,さらにセンサを2 m 程度の保持棒の先端に取り付けることで回転機器から離れた位置からでの計測を可能としている.しかし,手で保持棒を保持するために,測定データに振動信号以外の不要な非定常のゆらぎ(手持ちによるセンサ部と測定対象との距離の変化)が混入する.この非定常ゆらぎはフーリエ変換の利用では抽出が困難である.非定常な信号の解析方法としてウェーブレット変換を利用した研究が行われており,ノイズ低減への応用も検討されている.しかし,非定常で個人差がある手持ちゆらぎの低減への応用は見られない.そこで本研究では,手持ちゆらぎの除去にウェーブレット変換による多重解像度解析を利用し,手持ちゆらぎ除去に適する多重解像度解析の再構成レベルおよびウェーブレット(スケーリング関数)について詳細な検討を行う.その妥当性をシミュレーションおよび実験で示す.
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