滑り転倒刺激実験における転倒回避動作の解析と回避動作戦略の検討

摘要

本研究では，後方への滑り転倒を防止するために，実際の滑り転倒現象を再現したシステムの開発と，システムにより与えた転倒刺激の際の回避動作に基づいた転倒リスク評価を最終目標とする．そのために本論文では，転倒リスクを評価する前段階として，これまで開発してきたトレッドミルの速度差による滑り転倒刺激手法を用いて，滑り転倒刺激実験における転倒回避動作の解析と回避動作戦略の検討を行った．まず，個人ごとに転倒回避動作が異なるかを比較するために，若年健常者3名を対象とした滑り転倒刺激実験を行い，その回避動作を解析した．解析では，姿勢の変化を把握するためにビデオカメラを用いて回避動作の特徴を抽出し，力の変化を把握するために床反力計を用いて矢上面方向の床反力の値を計測し，それぞれで比較した．その結果，姿勢の変化では，膝を屈曲させて歩幅を拡大する動作や，上肢の腕振りを大きくさせバランスをとる動作など，個人によって回避動作が異なっており，また力の変化においても転倒回避時の滑り足（転倒刺激を付与した側の足）の床反力の波形が異なっていることを確認した（Fig.1）．次に，上記で抽出した回避動作が被験者の転倒回避動作戦略であるかを検討するために，それぞれの被験者が転倒を回避する際に見られた運動の一部を制限した状態で転倒回避が可能か再度実験を行った．今回，制限を行ったのは，歩幅と上肢の腕振りの2条件である．その結果，歩幅を拡大して転倒を回避していた被験者では，歩幅が制限されると転倒することがわかり，その他の動作で代替して転倒を回避することが困難であることがわかった．しかし，上肢の腕振りを用いて転倒を回避していた被験者では，腕振りが制限されても，体幹を後傾させて転倒回避が可能であることがわかった．この結果より，転倒回避動作において，個人の戦略である主要な動作を制限されると転倒する可能性があり，個人の戦略として主要ではない動作が制限された場合では，その他の主要とされる動作で代替し，転倒を回避できる可能性が高いことが示唆された．