家庭内事故による小児急性硬膜下血腫発生メカニズムの検討

摘要

乳児の虐待もしくは転倒·転落事故によって生じるとされる頭部外傷の一つに急性硬膜下血腫(ASDH)が存在し．それにより，虐待と事故の判別が困難であるとされる．特に生後6か月から1歳半程度までの間につかまり立ちからの後方転倒や低位転落事故のような家庭内での軽微な事故においてASDHが発生すると報告されているが，そのメカニズムは不明である．特に，乳幼児期における家庭内事故でのASDHのリスクファクターとしてクモ膜下腔拡大があるとされる．クモ膜下腔拡大の影響を実験的に検討することは難しいため，家庭内転倒事故におけるASDH発生メカニズムを解明するうえで，シミュレーションが有用である．しかし，ASDH発生メカニズムに大きく影響する頭蓋骨と脳表間の相対運動は定量的な検証がなされておらず，ASDH発生メカニズム解明に利用可能なモデルは見当たらない．これまでに著者らは頭蓋内脳挙動を可視化する実験的モデルを構築し，それにより家庭内事故における頭蓋内脳挙動のメカニズム解明に取り組hできた．さらに，本実験モデルと同一形状·構造の有限要素モデルを用いて，つかまり立ち転倒実験の再現シミュレーションを行い，頭蓋内脳挙動が検証された乳児頭部の有限要素モデルを構築した．本稿では本モデルを用いて，つかまり立ち転倒を模擬したシミュレーションを行い，本事故形態におけるASDH発生メカニズムと乳幼児期におけるクモ膜下腔の拡大がASDH発生リスクにおよぼす影響について検討することを目的とした．