拇指関節可動域訓練装置の試作と評価

摘要

近年，日本の高齢社会は大きな問題として取り上げられている．高齢になるにつれて病気にかかりやすくなり，高齢者に多くみられる脳卒中などの脳血管疾患は，高い確率で歩行障害が起こる．また，脳梗塞の後遺症として非常に多い症状には，片麻痺が挙げられる．片麻痺などにより体を動かすことが困難になり，長期間に亘って手足などを動かさずに放置していると，関節や皮膚などが固まってしまう拘縮という症状が生じる．手指関節に拘縮が生じると，物を掴む際や，指を動かしただけで痛みが発生することがある．この拘縮の治療には，作業療法士などによる関節可動域（ROM）訓練が有効である．しかし，それには多くの時間が必要なだけでなく，痛みを伴うことから患者の肉体的なストレスや，介助者に対しての負い目から精神的なストレスを感じる患者も少なくない．さらにこのような訓練やリハビリテーションは感情労働と呼ばれ，この感情労働は施術を行う作業療法士の心理性ストレスの要因となっていることも明らかになっている．これらの理由から，拘縮の予防が重要であると考えられる．これまでに我々の研究グループでは，空気圧で動作する空気圧ソフトアクチュエータの開発を行い，これを駆動源として用いた手指関節用のROM訓練装置の開発を試みている．また，手指の中で拇指は，他の4指と比べて複雑な関節可動域を持つことから，拇指関節の拘縮予防を目的とした拇指のROM訓練装置を提案している．本稿では，改良した拇指ROM訓練装置の試作とROM訓練の評価試験について報告する．