冷媒圧縮機向け潤滑油の粘度解析

摘要

冷凍空調機の性能に深く関わる圧縮機の開発において，省エネ化や環境リスクの低い冷媒への転換が求められている．これらの要求に対し，適切な潤滑油を選定することが開発課題の一つとなっている．圧縮機において，潤滑油は軸や軸受けといった摺動部の摩擦·磨耗を低減する役割のほかに，冷媒を効率よく圧縮するため摺動部の間隙を埋めるシール材としての役割も担う．そのため，圧縮機動作に適切な粘度が潤滑油に求められるが，冷媒が溶け込むことで粘度が変化する場合がある．もし，冷媒が潤滑油に溶け過ぎてしまう場合，冷媒の低い粘度が大きく影響し，混合状態の潤滑油粘度も低くなる．そして，混合状態の粘度が適正値よりも低くなり過ぎると，摺動部での皮膜が薄くなり，軸と軸受けが直接接触し磨耗するため，圧縮機の耐久性低下の原因となり得る．さらに，摺動部間隙のシール性能が低下し冷媒の圧縮効率低下の原因ともなり得る．一方，粘度が高すぎる場合には，摩擦損失が増え動作電力が上昇する恐れがある．そのため，冷媒との混合状態で適切な粘度を示す潤滑油を選定することが要求される．潤滑油の粘度は，摺動部での温度や圧力，冷媒の種類などで変化する．これらの特性は，実験および実験値からの推算式から取得する方法が一般的である．想定される圧縮機動作環境での物性値を参考に，性能や信頼性を担保し得る潤滑油が選定されている．一方で，今後の冷媒変更においても，高性能な冷媒圧縮機に適切な潤滑油を選定するためには，冷媒との混合状態における摺動部での非平衡現象や物性を正しく理解し予測することが重要である．潤滑油と冷媒の混合状態における粘度物性を理解し，精度良く評価するには，大規模な分子スケール解析の手法開発が不可欠である．本研究では，大規模計算機による潤滑油の粘度解析技術の開発を目的とする．