ショットピーニング処理における粒子形状の影響

摘要

自動車の燃費向上並びにCO_2排出量削減の高い要求のため，自動車用部品のさらなる小型化，軽量化は極めて重要な技術課題である.このような課題を解決するためには，部品に用いる材料の高強度化が重要である.そのため，鋼材の成分調整，浸炭，窒化処理や焼入れ，焼き戻しなどの熱処理，ショットピーニングによる表面処理が盛hに研究されており，様々な部品に実施されている.特に，ショットピーニングは，装置が簡易かつ低コスト，処理面の材種や形状に大きな制約がなく，部品の強度を大幅に向上できることから，ばねや歯車，クランクシャフト，トランスミッションギヤなど幅広く適用されている.本研究で取り扱うショットピーニングは多数の球状粒子を高速度で投射することで，加工物表面に油だまりとなるディンプルの形成，投射面近傍に圧縮残留応力の付与や加工硬化層の形成などによる疲労寿命向上を目的に使用される.スチールショットは形状および硬度を制御可能なため，ショットピーニングでは主に使用される投射材である.しかし，粒子表面は酸化層で覆われ表面粗さも必ずしも平滑ではないため，エロージョンを誘発する可能性は高い.そのため，実際の使用環境では，粒子成分の転写やエロージョンを抑制すべく，粒子の材種，形状及び大きさなどを含めた投射条件が設定されている.圧縮残留応力の付与を目的としたショットピーニング処理において，一般的に使用される投射粒子の形状は球状である.しかし，その粒子形状は必ずしも球状とは言えず，楕円形状や製造時に粒子同士の接合により凸部を持つ不定形粒子が含まれている.これらの不定形粒子を用いてショットピーニング処理した場合，被投射材に応力集中や粉体衝突による摩耗であるエロージョンの発生要因となり，付与される圧縮残留応力の減少，表面あらさの増加など悪影響を及ぼす可能性が存在する.そのため粒子形状が真球のものを用いるのが理想ではあるが，コストの問題や加工物との機械的性質の相性などから，使用されない場合が多い.このため，スチールショットを研磨し，粒子表面を平滑化し形状を整え高精度化することは，エロージョンの抑制，コストの問題などに有効であると予想される.そこで本研究では，研磨により粒子形状及び表面状態を変化させたスチールショットの有意性の検討を目的として，炭素鋼焼人材S45Cに対して，ショットピーニング処理することで，投射粒子の形状や表面状態が投射面の加工硬化や圧縮残留応力付与などの改質効果に及ぼす影響について実験的に検討した結果を報告する.