複雑系経済学に基づく人工市場モデルの基本特性解析―複数財·複数市場への拡張

摘要

近年の情報技術の発達は目覚ましく，それに伴って取引者が得られる情報は以前より格段に多くなり，かつ情報が得られるまでの時間は大幅に短くなっている．また生産現場においては，消費者の嗜好の多様化などにより，変種変量生産体制への移行が顕著である．このような社会の動きに伴い，「電子商取引」といった新しい取引形態も多く見られるようになったが，そのことにより企業の取引形態は多様化し，取引における意思決定は複雑になってきている．そこでこれらの取引ではどのような現象が生じるかを見るため，計算機上に仮想的な市場である「人工市場」の構築を試みる．人工市場を構築する際の経済モデルとして，本研究では複雑系経済学で提唱されているモデルに着目する．複雑系経済学は，従来から主流である「新古典派経済学」の非現実的な性質に代わり，「限定合理性」，「規模に関する収穫逓増」，「相対取引」といった現実に見合った性質を柱とし，経済理論を再構築することを目指したものである．本研究では複雑系経済学に基づく人工市場を計算機上に構築し，市場における価格決定などのマクロなメカニズムを個々の取引エージェントの動きといったミクロな観点から解析することを目的とする．また，従来のモデルをさらに精緻なものにするといった観点から，複数財の交換を対象とし，複数市場の存在を考慮したモデルを構築する．