認知症予防に役立つICTと会話支援技術

摘要

認知症とは，一度発達した認知機能が，後天的な障害によって持続的に低下し，日常生活や社会生活に支障を来すようになった状態を指す．患者本人が困るだけでなく，周囲への負担が大きく，行方不明や交通事故などを引き起こすこともあることから，患者の増加は社会的な問題となっている．認知症は，人間の情報処理能力が低下する病であることから，情報技術がその予防や支援，治療に役立つと考えられる[1]．筆者は，2006年より，認知症の予防を支援する技術の開発に取り組hでいる［2，3，4，5，6，7］．認知症の原因疾患は，60種類以上あるとされ，認知症の予防と言った時に，主に想定される，アルツハイマー型と脳血管性が7割を占める．すべての病気と同様に，絶対にかからない方法はないが，これらはかかるリスクを減らす努力ができる．広義の予防は，一次予防から三次予防まで，三つに分類できる[8]．認知症における一次予防とは，認知症にならないよう発症を予防することである．二次予防とは，認知症の早期診断と進行を遅らせる支援を行うことである．三次予防とは，認知症になっても人間の尊厳をもって暮らし続けられるよう支援することである．認知症は，その定義から分かるように，疾患そのものと，生活および社会環境の組み合わせで現れる症状で定義される社会的な病である．従って，どの段階の予防についても，疾患そのものに働きかけることと，生活および社会環境を整えること，両方向からのアプローチが有効である．