認知症予防に役立つICT: 防ぎ得る認知症にかからない社会に向けて

摘要

認知症により行方が分からなくなつた人や，身元が分からない人が保護されたリするニュースが相次いでいる.2010年の認知症患者は，全国で439万人，予備軍を含めて800万人を超えると推計されている.高齢者人口約3,000万人の4人に1人以上を占める，高齢者にとって身近な病である.認知症とは，一度発達した認知機能が，後天的な障害によつて持続的に低下し，日常生活や社会生活に支障をきたすようになった状態を指す.患者本人が困るだけでなく，周囲への負担が大きく，行方不明や交通事故などを引き起こすこともあることから，患者の増加は社会的な問題となっている.認知症は，人間の情報処理能力が低下する病であることから，ICTがその予防や支援，治療に役立つと考えられる.すベての病気と同様に，絶対にかからない方法はないが，中にはかかるリスクを減らす努力ができる疾患もある.脳は筋肉に次いで可塑性が高く，使い方次第では発揮する機能や構造が大きく変わる.筆者は,2006年より,認知症の予防を支援する技術の開発に取り組んでいる.本稿では，高齢者の代表的な疾患として認知症を取り上げ，認知症とその前段階である軽度認知障害の定義について紹介し，その予防に有効と考えられる方法について述べる.広義の予防は，1次予防から3次予防まで，3つに分類できる.それぞれについて，予防に役立つICTを紹介する.必ずしも予防を目的として開発されたわけではないが，手段として役立つものも含める.