電力産業における新旧事業者間の技術格差と配分効率を考慮した最適垂直構造

摘要

本稿の目的は，電力産業において既存事業者の発電の限界費用が参入事業者より低い状況において，発送電分離が社会厚生に与える影響を明らかにすることである発電部門と送電部門からなる電力産業のモデルを考え，発電部門において既存事業者と参入事業者がクールノー型の寡占市場を形成している状況を考える.両事業者はともに，政策当局が社会厚生を最大にするように設定したアクセスチャージの水準を所与として発電量を決める.送電部門が既存事業者の一部である垂直統合のケースと，送電部門がいずれの事業者とも分離されている垂直分離のケースを考え，政策当局がアクセスチャージをそれぞれ最適に設定した場合に市場均衡で実現する社会厚生の水準を比較する.分析の結果，発電部門における参入事業者数の閾値が存在し，参入事業者が少ない場合は垂直分離が，多い場合は垂直統合が，それぞれ高い社会厚生を実現することが示された.これは送電部門の垂直的構造が，競争促進と発電部門の効率性の2つの効果についてトレードオフ関係を生じさせた結呆である.送電部門の収支制約を満たすようなアクセスチャージの範囲で両者の社会厚生を比較すると，参入事業者数に依存せずつねに垂直統合の方が高い社会厚生を実現する.