往復動内燃機関における冷却損失は総損失の20-30%を占めており,損失低減のためにこれまで多くの努力がなされてきた.冷却損失のさらなる低減にはエンジン筒内における局所的かつ非定常な熱輸送現象の正確な予測が必須であり,そのためにはピストンの運動に起因する流れの加減速の影響を調査することが重要である.脈動を伴う乱流は,加減速を伴う基礎的な流れとして実験·数値解析の両面で幅広く研究されてきた.Kawamura らは圧力勾配を正弦波状に変化させることで脈動流のDNSを実施し,定常流との比較により,脈動流では乱流エネルギーやレイノルズ応力などの乱流統計量が位相に応じて変化することが示された.また,Scotti and Piomelliは圧力勾配とその振幅が乱流の特性に与える影響を調べた.以上より,流れの脈動に伴う圧力勾配の変化により各種乱流統計量が変化し,いくつかの既存乱流モデルではそれらの予測に失敗することが明らかになっている.これらの現状を踏まえ,我々はこれまでに非定常乱流熱伝達場における既存乱流モデルの妥当性を検討するため,平行平板間流れを対象とした脈動流のDNSを行い,位相ごとの乱流統計量を評価した.その結果,平均速度場·温度場における標準的な対数則からの逸脱を確認するとともに,運動量輸送と熱輸送の相似性が位相により変化することを見出した.脈動流における熱輸送現象は脈動周波数,脈動振幅およびレイノルズ数,プラントル数によって支配されるが,エンジン筒内の熱損失を考える上ではエンジン出力に連動する脈動周波数が伝熱に及ぼす影響を把握することは特に重要である.そこで本研究では,基礎的な平行平板間乱流を対象として脈動周波数の異なるDNSを実施し,各種乱流統計量における脈動周波数の影響を調査する.
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