空間反転対称性の破れを制御した有機・無機ハイブリッド層状ペロブスカイト型ヨウ化鉛におけるバルク光起電力効果

摘要

バルク光起電力効果（BPVE）は、単一のバルク物質において、p-n接合のようなヘテロ界面を用いずに光起電力を発生する現象として関心を集めている。この効果は、系の空間反転対称性の破れに起因する現象である為、これまで強誘電体等を中心に研究が行われてきた。一方で物質設計による“空間反転対称性の破れ”の制御は、バルクの無機化合物では一般に困難である為、BPVEを示す新規物質の開発は、大半が既存の強誘電体等をベースとしたものに留まっている。これに対し本研究では、高効率太陽電池材料として近年脚光を浴びている有機・無機ハイブリッド型鉛ハロゲン化物に対し、キラル有機分子カチオンの導入を介して空間反転対称性の破れを制御した系を新規に開発し、BPVE の観測を試みた。本研究で開発した有機・無機ハイブリッド層状ペロブスカイト型鉛ヨウ化物（R/S~(-1)）の結晶構造を図 1 に示す。メチルアンモニウムカチオン（MeNH~(3+)）と鉛ヨウ化物から成る層状ペロブスカイト型構造の中のファンデルワールス層間に、キラルな有機アンモニウムカチオン（(R/S)--MePhC_2H_3NH~(3+)）が挿入された構造となっていることが分かった。また、空間群はキラリティと極性の両方を有する三斜晶系（P1）であり、空間反転対称性の破れが確認された。結晶構造中に含まれる二種類の有機アンモニウムカチオンの配向により電気分極が発生している[010]方向に沿って光電流測定を行ったところ、白色光照射下でゼロバイアスにおける光電流の発生が観測された（図2）。これは、分子キラリティを用いて系に導入した、空間反転対称性の破れによるBPVEの発現を示唆している。